糖尿病の薬物療法

 

 糖尿病の治療は、食事と運動療法が基本となります。それでも不十分な場合は薬物療法が必要になります。薬物療法は大きく分けて、飲み薬とインスリン注射の2つがあります。飲み薬には、インスリンの効きを良くするものや、体内でインスリンの分泌を促したりするものがあります。一方、インスリン注射は、もともと体内で分泌されるインスリンを人工的に作り、注射する方法です。どちらを使うかは患者さんの血糖コントロールの状態や、合併症の危険度などによって判断されます。
薬の種類イラスト

飲み薬による治療
飲み薬は血糖を下げる作用によって、大きく5種類に分けられます。

ブドウ糖の利用・吸収にかかわる薬
●ビグアナイド薬
 小腸で吸収されたブドウ糖は、いったん肝臓に蓄えられます。必要に応じて、肝臓から血液中に放出され、筋肉細胞や脂肪細胞でエネルギー源として使われます。ビグアナイド薬は、肝臓からのブドウ糖放出を抑えるとともに、筋肉細胞、脂肪細胞でブドウ糖の利用を高める作用があります。
ジメトスB・グリコラン・メルビンなど
●αーグルコシターゼ阻害薬
食事で取り入れられた糖質は小腸でブドウ糖に分解されます。このときには「αーグルコシターゼ」という消化酵素が働いています。αーグルコシターゼ阻害薬は、この消化酵素の働きを抑えて、ブドウ糖の吸収を遅らせる作

用があります。それによって食後の急激な血糖値の上昇を抑えることができます。
→グルコバイ・ベイスン・セイブルなど

インスリンにかかわる薬
●インスリン抵抗性改善薬
 インスリンが分泌されていても、効きが悪い状態を「インスリン抵抗性がある」といいます。インスリン抵抗性改善薬は、ブドウ糖が筋肉細胞や脂肪細胞に取り込まれるのを助けて、インスリン抵抗性を改善する作用があります。血液中にインスリンが分泌されていても、高血糖が続いている人に使われます。
→アクトスなど
●スルフォニル尿素薬
 インスリンは、すい臓のランゲルハンス島β細胞から分泌されています。スルフォニル尿素薬は、このβ細胞を刺激して、インスリンの分泌を高める薬で、持続時間が長いのが特徴です。
→オイグルコン・ダオニール・グリミクロン・アマリールなど
●速効・短時間型インスリン分泌促進薬
 スルフォニル尿素薬と同じように、すい臓を刺激してインスリンの分泌を促す薬ですが、非常に早く効くのが特徴です。服用後30分ほどで効果 がピークに達するため、食後の急激な血糖値の上昇を抑えるのに、よく使われます。
→スターシス・ファスティック・グルファストなど

インスリン療法
 飲み薬を使っても、血糖値のコントロールがうまくいかない場合は、インスリン療法が行われます。患者さんの病状に合った量 を毎日、患者さんが自分で皮下に注射する方法です。自分で注射をするというと不安で怖がってしまう患者さんが多いようですが、最近は「ペン型注射器」が主流になり、ほとんど無痛の携帯型で、簡単で使いやすく大変便利です。
 インスリンは効果が現れるまでの時間と、作用時間から「超速効型、速効型、混合型、中間型、持続型」の5つのタイプに分けられます。どのタイプを使うかは、患者さんの病状にもよりますが、通 常は、睡眠前に持続型のインスリンを1回注射し、朝昼晩の食前にそれぞれ3回、速効型を注射します。これは健康な人のインスリンの分泌にできるだけ近いパターンで補う方法です。なお、最近では注射ではなく、吸入タイプのインスリンも開発中で、今後の研究が期待されています。

薬物療法の注意
 糖尿病の薬物療法で、最も注意が必要なのは「低血糖」です。いずれの薬も血糖値を下げるように働きますから、「食事時間が不規則、食事の量 が少ない、薬の飲み過ぎ」などの場合、血糖値が下がり過ぎてしまうことがあります。血糖値が下がり過ぎると「吐き気、ふるえ、目がくらむ」などの症状が現れたり、ひどい場合には意識障害を起こすこともあります。このような症状が現れた場合は、すぐにジュースやスポーツドリンク、砂糖、ブドウ糖などを摂取するようにして下さい。血糖コントロールがうまくいっているほど低血糖を起こしやすくなりますから、ブドウ糖やキャンディーなどを常に携帯しておくことも大切です。食事時間が2時間ほど遅れただけでも、低血糖発作が起こる危険性があります。食事は毎日、同じ時間に摂るようにしましょう。ずれる場合でも、普段の時間より1時間程度の範囲内に収めるようにして下さい。
 インスリン療法は、すい臓を刺激する飲み薬とは異なり、直接インスリンを補うことで、すい臓の負担を減らします。それによって、すい臓のインスリン分泌が回復し、インスリン療法から離脱される患者さんもいます。このようにいうと「何とかしてインスリン療法をやめたい」と思う患者さんがいるかもしれませんが、糖尿病治療の目的は、あくまでも「血糖値を適正な範囲内にコントロールする」ことです。「薬物療法をやめる」ことが目標ではありません。インスリン注射や飲み薬をむやみに怖がるのではなく、血糖を上手にコントロールするための「道具」だと考えて下さい。