放置すると、網膜症や神経障害などの合併症が起こる

 糖尿病を放置する人が多いのは、健康診断でチェックされても、自覚症状がないことと、「糖尿病」という病名のイメージからくる『まだ大丈夫だろう』と考えやすいことにあります。そのまま放置するとさまざまな合併症を起こしますが、そのことを知らない人が多いのも問題です。では、どのような合併症が起きるのでしょうか?。主なものをまとめると次のようになります。

●動脈硬化
 糖尿病は血液中のブドウ糖が増えて、全身の血管が障害を受ける病気『血管ボロボロ病』で、中でも特に障害を受けやすいのが、毛細血管を含めた「細小血管」です。これは、全身に張り巡らされていますが、腎臓や目の網膜、また神経の周りも毛細血管が取り巻いているので、障害を受けやすくなっています。そのため、「網膜症、腎症、神経障害」を「3大合併症」と呼んでいます。
 近年、動脈硬化の解決策として注目されているのが「NO(一酸化窒素)」の働きです。大気汚染物質の窒素化合物は体内に入ると有害ですが、体内で発生する「NO」は無害で生命に活力を与えていることが発見されました。「NO」は血管内皮(血管の内壁を被う薄い組織)で作り出される物質で、血管を広げたり、悪玉 コレステロールの酸化を防ぐなどの重要な働きがあります。そのため「NO」が作られる量 が減る(高血圧、高脂血症、ストレス、タバコ、活性酸素などが要因)と血管が収縮して動脈硬化が進行することが判っています。
 高血糖のブドウ糖や活性酸素の影響で、動脈硬化がごく初期の頃から始まり、毛細血管から、だんだんと太い血管に起こります。加齢に伴って誰にでも起こりますが、例えば心臓の筋肉に酸素と栄養を供給している冠動脈の動脈硬化が進行すると「心筋梗塞」を、脳血管の動脈硬化で「脳梗塞」を起こすことがあります。

●神経障害(手足のシビレ、勃起不全、エソ)

 合併症のうち最初に現れるのが神経障害です。神経障害は3〜5年で全身のどの神経にでも発生する可能性がありますが、比較的早いうちから起こってくるのが足の末梢神経です。これは、全身の神経の中で足の末梢神経が最も長く、それだけ障害される割合が高くなるためと考えられます。末梢神経はさらに「感覚神経」「運動神経」「自律神経」に分けられ、障害される神経によって症状が異なります。「感覚神経」が障害されると、足先がシビレたり、痛んだりします。足の裏に紙一枚が張り付いているような違和感がすることもあります。ひどくなると、足先に「ケガ」や「ヤケド」をしても、そのことに気付かず、エソを起こし、場合によっては、足の一部を切断しなければならないこともあります。「運動神経」が障害された場合は、筋肉の萎縮が起きたりします。また、「自律神経」が障害されると「立ちくらみ」「発汗障害」「胃もたれ」「便秘・下痢」「勃起不全」などの症状が現れます。
 神経障害が起こる主な原因の一つに、ブドウ糖の代謝物質である「ソルビトール」の蓄積があげられます。神経細胞からは軸索がのびており、鞘のような細胞(髄鞘)で取り囲まれています。血糖の高い状態が続くと、この髄鞘にソルビトールが溜まって壊れたり、働きが低下して、神経の伝達がうまくいかなくなり、感覚の低下やシビレなどが起こってくると考えられています。
 神経障害の早期発見に有効な検査には「アキレス腱反射検査」があります。これはハンマー状の器具(打腱機)で、アキレス腱を軽くたたいて、その反射を調べるもので、足が跳ね上がらない場合は、神経障害が疑われます。外来で簡単に受けられる検査です。

●網膜症
 眼球の内側を覆っている網膜の毛細血管が高血糖で障害されると、毛細血管が破れて眼底に小さな出血が起こります。また、毛細血管から血液の成分がしみ出たり(白斑)、血管の一部が膨らんで、こぶができたりします。この段階では自覚症状はほとんどありませんが、進行すると、網膜の血液の流れが滞り、酸素が十分に供給されなくなります。酸素不足を解消するために、網膜には新たな血管(新生血管)がつくられますが、この血管は非常にもろく、血圧が上がったり、軽い衝撃を受けただけでも、破れて出血を起こしやすくなります。この段階になって初めて、自覚症状が現れてきます。糸くずのようものがちらついたり(飛蚊症)、ものがぼんやり見えるといった症状が出てきます。
 さらにひどくなると、出血が起こった後に、網膜が眼底から剥がれる「網膜剥離」になることがあります。突然視野の一部が暗くなったり、視力障害が起こってきます。特に黄斑部(視細胞が集まっている部分)に網膜剥離が起きると、失明することもあります。網膜症の初期には、自覚症状がほとんどありません。網膜の異常を早期に発見するには、定期的に眼科で検査を受けて、詳しく調べてもらうことが大切です。

●腎症

腎臓は、血液をろ過して、老廃物や余分な水分を尿として排泄する重要な働きをしています。その役割を担っているのが腎臓の「糸球体」です。高血糖の状態が長く続くと、糸球体にも大量 の糖が流れ込んで、異常が起こり、毛細血管の血流が悪くなります。また、毛細血管の壁も厚くなって、フィルターの目が粗くなったような状態になります。すると血液をろ過する機能が低下し、尿中にタンパクが出るようになります。これが糖尿病性腎症です。この状態を放置していると腎臓の働きが著しく低下して、腎不全となり、透析療法が必要になることもあります。
 糖尿病性腎症は、自覚症状がなかなか現れませんので、腎障害を早期に発見するためには、検査が必要です。腎症を調べる検査の代表的なものに「尿アルブミン検査」があります。これは、通 常の尿検査では検出されない「アルブミン」という微量のタンパク質を調べるものです。アルブミンは腎障害の初期から尿に混ざって排出され、1日に30r以上検出される場合に、腎症が疑われます。この検査は3ヶ月に1回の頻度で行われます。